今日はひどい1日だった。
妹の天然ぶりを認識していなかった俺が甘かった。
朝方出発の準備をしていたら、トイレに行った後寝ぼけて部屋を間違えた妹が俺の部屋に。
当然、明かりがついていてシャミをケージに入れている俺の姿は不自然だと思ったらしく、
「シャミを連れてどこに行くの?その格好は?荷物は?」と問いただした挙句、
俺のカバンにしがみついて離れなくなってそのまま連れて行くことになってしまった。
古泉は「1人くらい増えるくらいなら余裕ですよ」とか言っていたが、俺は不安でならない。
さて、鶴屋さんの別荘近くの駅に着いた俺たちを迎えたのは案の定、荒川氏と森さんだった。
やはり古泉の組織の人間なのだろう。
別荘へは彼ら2人の運転による四駆2台に分乗して行った。
別荘に到着したときに感じた俺の妙な予感は後で現実の脅威になったわけだが。
疲れた俺たちには休憩時間など与えられず、ハルヒの号令によって階下に集められた俺たちは、
早速すぎるほど早速スキーに出かけることになった。
全く滑れない朝比奈さんと妹は、それぞれ鶴屋さんとハルヒが教えることになり、
俺と古泉は勘を取り戻すために適当に滑りに出ることにした。
言うまでもないが、長門は無表情のまま難なく滑り出している。
30分もすると、朝比奈さん自身に才能があったのか鶴屋さんの教え方が上手かったのか、
朝比奈さんはもう楽しめるほどにスキーを習得していた。
一方の俺の妹の方はハルヒも困るほど上達しないらしく、見かねた鶴屋さんが
「ハルにゃんたちはリフト乗ってっちゃっていいよ!この子はあたしが手ほどきしとっから!」
と言い出し、俺たちはハルヒに連れられていきなり頂上から滑ることになったわけだ。
何回目かに滑り降りて、鶴屋さんと妹は2体目の雪ダルマ製作にとりかかろうとしていた。
これが最後の記憶になるかも知れなかった―。
順調に滑り降りていた俺たちはいつの間にか、いつしか、突如として、吹雪の真っ只中にいた。
何の予兆も無かった。
先頭を切って滑り降りていたハルヒがスキーを止め、競い合っていた長門も急停止して、
朝比奈さんと一緒に滑っていた俺と最後尾の古泉が追いついたとき―。
すでに吹雪はここにあった。
まるで誰かが呼び寄せたように…。
その後、いくら歩いてもどこにもたどり着かない状況に陥り、
長門の空間把握能力も超えた事態になってしまった。
しばらくするとハルヒが光を見つけ、近寄ってみるとそれは奇妙な西洋風の館だった。
扉を殴打してハルヒが家人を呼ぼうとするが、一向に返事はない。
ハルヒはゆっくりとノブを回した。
鍵はかかっておらず、中に入った俺たちは人工の光に迎えられた。
やたら豪華な内装が目に付く。
ハルヒと俺は中を捜索して人がいないか確かめに出ることにした。
結局何も見つからずにロビーへ戻ると、朝比奈さんが半泣きの顔をしている。
「キョンくん、涼宮さぁん…。よかったぁ、戻ってきてくれて…」
古泉がこっそり教えてくれたことには、俺たちは30分くらい離れていたと思っていたが、
古泉たちのところでは3時間も経過していたというのだ。
古泉の説明によると、この館内では場所によって時間の流れる速度が異なる…
または存在する個々の人間によって主観時間と客観時間にズレが生じる、
そのどちらかあるいは両方だということだ。
もうわけがわからない。
俺たちは出来るだけ一塊になって行動することを心掛けなければならないようだ。
その後、食糧の揃った食堂を見つけ、たくさんあった部屋を割り振り、
俺も自分の部屋でまどろみかけていたらしい。
いきなり朝比奈さんに呼びかけられて飛び起きると、
目の前にYシャツ1枚だけ着た朝比奈さんがベッドに腰掛けていた。
「ねぇ、ここで寝ていい?」
色仕掛けで迫ってくる朝比奈さん。
嬉しいのは山々だが、俺の知っている朝比奈さんはこんなことはしない。
冷静になった俺は左胸を見る。
ホクロがない。
「あなたは誰だ」
悲しそうな顔をして廊下へ飛び出す朝比奈さん。
追いかけて部屋の外へ出ると、ハルヒも同時に扉を開けていた。
「あれ、あんた…さっきまであたしの部屋にいなかった?」
横を見るとTシャツ姿の朝比奈さん、長門や古泉までいる。
どうやらそれぞれ誰かの幻影を見ていたらしい。
と、突然長門が倒れた。
ハルヒに言われるがままに氷枕を探しに出た。
氷枕のあては無く、無意識に厨房にやってきた俺はあることに気づく。
大型冷蔵庫の取っ手をとる前に、氷枕の姿を想像して念じてみる。
扉を開けると、やはりそこに氷枕があったのだ。
便利すぎる。
このことで決心が決まる。
こんなところに、これ以上いてはならない。
食堂を出ると、エントランスに古泉が立っていた。
なにやら扉に付いた金属のプレートを見て考え込んでいる。
古泉は最後に扉を閉めたときにこのプレートは無かったと断言した。
そのプレートにはこう書かれていた。
x-y=(D-1)-z
x=□、y=□、z=□
□の部分はへこんでいて、床の上には数字ブロックがあった。
これをはめ込めといっているかのようだ。
しかも、この扉には内側から開けられない鍵がかけられていた。
古泉にはこの数式の答えが思い出せないようだ。
古泉によれば、この数式は長門の作った唯一の脱出路だそうである。
そのうちに俺の帰りを待ちかねたハルヒがやってきた。
「涼宮さん、この数式の見当は付きますか?」
「オイラーじゃない?」
随分とあっさり言いやがった。
「レオンハルト・オイラーですか?数学者の」
古泉はもう一度プレートを数秒見つめ、
「そうか」
演出のように指をパチンと鳴らした。
「オイラーの多角形定理ですね。おそらくこれはその変形ですよ。よくわかりましたね」
「違うかも。でもこのDってとこ、次元数が入るんだと思うから、多分よ」
どっちにしろ、俺にはさっぱりわからん。オイラーは誰で、多角形定理とは何だ?
古泉の丁寧な説明があり、なんとなく理解できた。
だが、結局元となる多角形がないと解は出ないという。
「それより、キョン!」
いきなりハルヒが叫んだ。
「有希があんたのこと、うわ言で1回だけだけど呼んでたわ」
「なんて言ったんだ?」
「だから、キョン、って」
「いや、それは本当に”キョン”でしたか?聞き違いという可能性は?」
古泉がせっかくの長門の寝言にケチを付けるように口を挟んだ。
「声が小さかったから、もしかしたらヒョンとかジョンとかだったかも」
「なるほど、第一音が不明で、語尾だけが聞き取れたんですね。きっとそれは”ヨン”ですよ」
「よん?」
「数字の4ですよ」
「4がどうかし…」
「やっと条件が出揃ったんですよ。これで分かりました。xyzに入る数字がね」
古泉の説明は長かったので簡略化するとこうだ。
さっきの幻影出現事件と組み合わせて考えるようである。
出現した幻影の本人と、出現した先の人物の部屋の位置を点にして線で結ぶ。
そうすると4という形になってあらわれるのだ。
この形をオイラーの多角形定理に当てはめると答えが出る。
そういうことだ。
俺たちは長門を信じ、ブロックをはめ込んでノブを回した――。
「―こりゃぁ…」
晴天が広がっていた。
リフトのケーブルが横切っているのが見える。
俺の足元には雪があった。
周りには残りの4人も揃っていた。
長門の熱は何事も無かったようになくなっていて、まるで夢の中にいたかのような気分だ。
後の鶴屋さんによる話である。
「そういや十分くらい猛烈に雪が降ったときがあったかな?でも、そんな言うほどのもんじゃ
なかったよっ。ただのニワカ雪さっ。五人ともそろーりそろーり降りて来て、なぜに?って
思ってたらいっちゃん前の長門ちゃんがバッタリ倒れたね。すぐに起きたけどさー」
これが現実らしい。
俺たちが過ごした半日ほどの時間は、鶴屋さんたちにとっては数分のことなのだ。
こんなことがあって、明日は大晦日だ。
俺は現在別荘の部屋から携帯で更新している。
大晦日には古泉による推理劇があり、皆揃って新年を迎えることになる。
新年はいい年になってもらいたいものだ。
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疲れました。
1時間以上かかって「暴走」の「雪山症候群」を要約して載せましたので。
一応スピリットだけは2次元に飛んでいるのでこちらは別世界です。
風邪は雪山にいたせいもあって治りません。
数年前にインフルエンザで年越しして、10日以上かかって治した記憶がありますが。
今日ブログのアクセス解析見ていたら、中国のサイトから訪問した人がいました。
今までトラックバックは無くともリンクだけしていた日本のサイトならいくつかありましたが、
さすがに中国は初めてです。
ちなみに中国語のところは、「特別版を含む10種を多角的に撮ってあり、
非常に参考に出来るので、買う前に見ることをお勧めする。」のようなことが書いてあります。
微妙な気分です。
さて、そういうわけで今年のねこみみぶろぐの更新は最後になります。
来年もよろしくお願いいたします。